2026-08-16

中外製薬 vs 第一三共【2026年最新決算】ADCでがん治療の未来を獲りに行く製薬の本命対決

中外製薬 vs 第一三共|ADCでがん治療の未来を獲りに行く、製薬の本命対決
私がナースをやめるまで 2026年8月
製薬株分析|ADC対決

中外製薬 vs 第一三共
ADCでがん治療の未来を獲りに行く
製薬の本命対決

どちらも「がん領域の世界企業」を目指している。
でも戦い方は——ロシュの傘の下で磨く研究力か、
自前のADC技術で世界を席巻するか——まったく違う。

4519 / 東証プライム
中外製薬
バビースモ・ヘムライブラ・アレセンサ
ロシュとのアライアンスが基盤
営業利益率 47%台
vs
4568 / 東証プライム
第一三共
エンハーツ・ダトロウェイ
5本のDXd ADCで世界を狙う
売上 2兆円超 過去最高
#中外製薬 #第一三共 #ADC #がん治療 #製薬株 #日本株 #長期投資

がん治療の世界で今、最も注目されている技術がADC(抗体薬物複合体)です。2024年の世界市場は約129億ドル。2030年には最大470億ドル規模への成長が予測されており(複数調査機関の平均)、この波に乗ろうとしている日本企業が、中外製薬と第一三共です。

どちらも「がん領域のグローバル企業」を目指しているという点では同じです。でも決算資料と戦略を並べると、稼ぎ方の設計も、リスクの取り方も、まったく異なることが見えてきます。

ADC(抗体薬物複合体)の仕組み
🎯
抗体(Ab)
がん細胞の目印(抗原)を見つけて結合するミサイルの誘導装置
🔗
リンカー
がん細胞に到達するまで毒素を保持し、到達後に切断される化学的な橋
💊
ペイロード(毒素)
がん細胞に届いて殺傷する超強力な薬剤。正常細胞にはほぼ触れない

従来の抗がん剤(化学療法)は正常細胞も傷つけるため、副作用が大きい問題がありました。ADCは「がん細胞だけに毒素を届ける」設計で、治療効果と副作用のバランスを大幅に改善します。第一三共のエンハーツはその先駆的な製品として世界医学史に残る成果を上げています。

◆ ◆ ◆
01

最新決算で数字を並べる

まず両社の最新決算を確認します。中外製薬は12月決算(2026年12月期・中間期)第一三共は3月決算(2026年3月期・通期)と期ずれがあるため、数字の直接比較には注意が必要です。

47%
中外製薬
営業利益率(中間期)
17%
第一三共
コア営業利益率(通期)
+14.7%
中外製薬
売上収益増収率
+12.6%
第一三共
売上収益増収率
指標 中外製薬 4519 第一三共 4568
対象期間 2026年12月期 中間期(1〜6月) 2026年3月期 通期
売上収益 6,633億円(+14.7%) 2兆1,230億円(+12.6%・過去最高)
通期 売上収益目標 1兆3,450億円(Coreベース) 2兆2,800億円(2027年3月期予想)
営業利益率 47.1%(中間期) 10.8%(営業)/ コア営業利益率16.9%
Core営業利益 3,291億円(+21.0%) 3,599億円(+15.1%)
純利益 2,317億円(+19.2%) 2,598億円(▲12.1%・一過性費用あり)
自己資本比率 高水準(親会社ロシュが過半数保有) 41.5%
主力製品 バビースモ・ヘムライブラ・アレセンサ・NEMLUVIO エンハーツ(Q1単独で2,398億円・+48.9%)
配当(直近) 年132円(普通配当ベースでは増配) 年78円(2027年3月期予想は100円へ大幅増配)

第一三共の「営業利益率10.8%」に注意:製造委託先への損失補償等、一過性の費用計上により、2026年3月期の営業利益は前期比31%減となりました。一過性費用を除いたコア営業利益は+15.1%増と堅調です。また、アストラゼネカ・米国メルクとの提携で累計1兆3,829億円の契約時一時金・マイルストンを受領済みという事実も、財務評価の重要な文脈です。

◆ ◆ ◆
02

「戦い方」が根本から違う

同じ製薬会社でも、中外製薬と第一三共は収益を作る構造が根本的に違います。

中外製薬は2002年にロシュ・グループの一員となり、「ロシュの研究開発ネットワークを活用しながら、自社創製品をグローバル展開する」という独自ビジネスモデルを確立しました。第一三共は、自社で開発したDXdというペイロード技術を核に、5本のADCパイプラインを世界に展開するという「技術輸出型」の戦略です。

中外製薬 — 収益モデル

ロシュとの双方向アライアンスで
安定と成長を両立

  • ロシュが株式過半数保有・独立経営を維持
  • ロシュ製品の日本開発・販売に第一選択権
  • 自社品のグローバル開発はロシュが担当
  • ロイヤルティ・輸出収入が安定収益の柱
  • 国内がん領域売上トップクラスのシェア維持
  • R&D費をロシュとの共同投資で分散できる
第一三共 — 収益モデル

DXdペイロード技術を核に
5本のADCで世界市場を取りに行く

  • エンハーツはアストラゼネカ・米国メルクと提携
  • 提携契約金・マイルストンで累計1兆3,829億円受領
  • エンハーツ利益をプロフィット・シェア(折半)
  • 売上増収が利益に残りにくい構造的な課題あり
  • 2027年3月期 エンハーツだけで売上1兆円超見込み
  • 次世代ADC4本が臨床開発中。成功すれば2030年代に複数ブロックバスター
中外製薬は「ロシュという大きな木」に支えられながら
自分の花を咲かせる戦略。
第一三共は「自分で木を育てて」
世界の森に出ていく戦略だ。
◆ ◆ ◆
03

パイプラインで「未来の収益源」を比べる

製薬株の長期投資で最も重要なのは、現在の利益より「これから承認される新薬が何本あるか」というパイプラインの質と量です。臨床試験の成功率は概して低く、Phase 3まで来ても失敗することがある。だから複数の候補を持つことが生命線になります。

主要パイプライン比較(2026年8月時点)
中外製薬
バビースモ(ファリシマブ)
網膜疾患向け。世界初のバイスペシフィック抗体。日米欧承認済み。適応拡大も進行中
承認済み
中外製薬
ヘムライブラ(エミシズマブ)
血友病A向け。世界初の皮下注射型。ロシュのネットワークで世界展開中
承認済み
中外製薬
NEMLUVIO(ネモリズマブ)
アトピー性皮膚炎向け。米国ガルデルマへ導出。肥満症・新領域への拡張も研究中
承認済み
第一三共
エンハーツ(T-DXd:抗HER2 ADC)
2026年Q1単独で2,398億円(+48.9%)。乳がん・肺がん・胃がん・固形がん全般に適応拡大中。2026年5月米国で早期乳がんにも承認
承認済み・拡大中
第一三共
ダトロウェイ(Dato-DXd:抗TROP2 ADC)
乳がん・肺がん向け。2026年5月に米国でトリプルネガティブ乳がん1次治療に承認。エンハーツに続く第2の柱
承認済み
第一三共
HER3-DXd(パトリツマブ デルクステカン)
EGFR変異肺がん向けADC。Phase 3進行中。成功すれば肺がん市場に新たな選択肢
Phase 3
第一三共
I-DXd(イフィナタマブ デルクステカン)・R-DXd(ラルドタツグ デルクステカン)
次世代ADC候補2本。それぞれ小細胞肺がん・婦人科がん領域。臨床試験中
臨床試験中

第一三共の「5DXd ADC戦略」の意味:同一ペイロード(DXd)技術を持ちながら、標的(抗原)を変えることで5本のADCを量産する戦略です。ひとつのプラットフォーム技術に乗ることで開発効率が上がり、製造技術も共有できます。エンハーツで証明した「DXdは効く」という事実が、後続品の開発承認においても有利に働く可能性があります。

◆ ◆ ◆
04

「利益率の差」はどこから来るのか

中外製薬の営業利益率が47%台、第一三共が10%台(一過性費用除くコアベースで17%台)という差は、どこから生まれているのでしょうか。

収益力の比較(最新期・概算)
中外製薬(4519)
営業利益率
47.1%
Core営業利益率
49.6%
第一三共(4568)
営業利益率
10.8%
Core営業利益率
16.9%

※第一三共の利益率はプロフィット・シェア(提携先との利益折半)・販売費増加が構造的に影響。一過性費用除きのCore営業利益ベースで評価するのが適切。

第一三共の利益率が低く見える最大の理由は、「プロフィット・シェア」という構造にあります。エンハーツが日本以外で売れた利益は、アストラゼネカとほぼ折半になります。売上が増えるほど、販売費も比例して増加する仕組みです。

これは弱点ではなく、自社単独では背負えない規模の開発費と販売網を、利益折半と引き換えに手に入れた合理的な判断です。累計1兆3,829億円の契約金・マイルストン受領がその証拠で、この資金が次の5本のADC開発に投じられています。

第一三共は「利益が少ない」のではなく
「将来の利益を作るための投資を最大化している」段階だ。
そのコストが今の利益率を押し下げている。
◆ ◆ ◆
05

正直に並べる——リスクとチャンス

⚠ 中外製薬のリスク

ロシュ依存と
パイプラインの選択と集中

ロシュとのアライアンスは強みだが、ロシュの経営判断に影響される側面がある。2026年中間期にはGYM329(筋萎縮症)など複数プロジェクトを中止。選択と集中の判断が求められ続ける。

⚠ 第一三共のリスク

プロフィット・シェアによる
「増収→増益」が成立しにくい構造

エンハーツが想定より売れるほど、アストラゼネカへの費用も増える。「売上が増えているのに営業利益がピークを下回る」という現象が2025〜26年に発生。構造的な課題として市場が認識している。

△ 共通のリスク

薬価引き下げと
競合ADCの増加

日本の薬価は毎年改定(引き下げ)があり、国内収益の圧迫が続く。ADC市場も世界的に参入が増え、競合激化は不可避。アッヴィ・ギリアド・ファイザー・ロシュが強力なパイプラインを持つ。

△ 共通のリスク

臨床試験の失敗リスク

製薬業界全体でPhase 3の成功率は40〜50%程度とされる。第一三共の後続ADC4本が仮に失敗した場合、「エンハーツ一本足打法」という評価に戻る可能性がある。

◆ ◆ ◆
♥ NURSE COLUMN

がん治療の現場から見た、ADCという「奇跡の薬」の話

看護師として働いていると、がん患者さんのそばにいる時間が自然と長くなります。化学療法の点滴が始まる朝の緊張感、副作用で食欲が落ちる姿、それでも「治りたい」と前を向く表情——そういうものを肌で感じながら、この記事を書いています。

ADCは、私の目から見ると「点滴の進化版」に見えます。従来の抗がん剤は、強い薬を全身に流して、運良くがん細胞を倒す——副作用が大きいのは、正常細胞も傷ついているから。ADCはその問題を、「がん細胞のそばに来てから初めて毒素を放つ」という設計で解決しようとしています。理論的には正しいし、エンハーツの実際の臨床データを見ると、その効果は本物だと思います。

株の話に戻ると、第一三共は「弾を5本持っている」という意味で、製薬株として非常に稀なポジションにいると感じます。ひとつの薬で世界が変わるのは幸運だけど、ひとつ失敗しても次がある——それが長期投資として安心できる理由のひとつです。

中外製薬はロシュという「大学病院」に所属しながら、自分のクリニックも持つイメージ。強くて安定している。第一三共はまるで「独立開業医が世界に挑戦している」感じ。どちらも応援したくなりますが、投資家としてはどちらに賭けるのか——まだ正直、決めきれていません。

◆ ◆ ◆
06

長期投資として、どう整理するか

どちらが優れているかではなく、自分がどんな製薬株を持ちたいかによって選択が変わります。

中外製薬 向きの人

高収益・ロシュの安定基盤と
じっくり成長したい

営業利益率47%という製薬業界トップクラスの収益性。ロシュとのアライアンスで研究開発リスクを分散しながら、国内がん領域での圧倒的なシェアを持ち続ける。「安定した大木に寄り添いたい」投資家向け。

第一三共 向きの人

ADC技術に乗り、
2030年代の大化けを狙う

エンハーツの成長継続+後続ADC4本の開発成功が重なれば、複数のブロックバスターを持つ世界的製薬企業に変貌する可能性がある。利益率の低さは「今だけ」と読めるかが判断の分かれ目。業績変動に耐えられる長期投資家向け。

SUMMARY — この記事のまとめ

  • ADC市場は2025年〜2030年で最大CAGR23.3%成長が予測。両社ともその中心に位置する
  • 中外製薬:ロシュとのアライアンスが基盤。営業利益率47%台。2026年12月期中間期はCore営業利益+21%増収増益
  • 第一三共:2026年3月期売上2兆1,230億円(過去最高)。エンハーツ単品で2026年度Q1に2,398億円(+48.9%)
  • 第一三共の利益率が低い理由は「プロフィット・シェア」構造。アストラゼネカとの利益折半が販売費として増加するため、増収が利益に残りにくい
  • 第一三共はアストラゼネカ・米国メルクから累計1兆3,829億円の契約金・マイルストンを受領。これが5本のADC開発資金の一部となっている
  • パイプライン:中外製薬は承認済み製品の適応拡大が中心。第一三共は5本のDXd ADCで2030年代の複数ブロックバスターを狙う
  • 「安定した高収益を長期保有したい」→中外製薬、「ADC技術の爆発的成長に賭けたい」→第一三共、が現状の整理

【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。記載の数値は中外製薬2026年12月期第2四半期決算短信(2026年7月24日)・第一三共2026年3月期決算短信(2026年5月11日)・第一三共2027年3月期第1四半期決算補足資料(2026年7月31日)・中外製薬公式IR(ロシュとのアライアンス)をもとにしています。ADC市場規模予測はGrand View Research・The Business Research Company・GII等複数の調査機関の数値を参照しており、調査機関によって数値に幅があります。投資判断はご自身の責任において行ってください。

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です