ニトリが36年無敗だった理由|お、ねだん以上の裏側

「お、ねだん以上。」の正体は、
安さじゃなかった。
36年無敗だったニトリの強さと、はじめての”負け”
家具を買うとき、価格と品質、どちらを信じますか。
私は仕事柄、「安い」という言葉を簡単には信じません。コストだけ削った医療材料が、後でどれだけ高くつくか知っているからです。
しかし、ニトリは違いました。安くて、しかも壊れない。「お、ねだん以上。」というあのフレーズを、私たちは何の疑いもなく受け入れています。
実は、その裏側には36年間「一度も負けなかった」という、世界記録レベルの強さが隠れていました。そして今、その記録は静かに崩れ始めています。
ウォルマートを超えた、世界一の記録
ニトリホールディングスは、上場前から数えて36期連続で「増収増益」を達成しました。
これは、かつて世界記録を持っていたウォルマートの32期を上回る数字です。
売上も利益も、36年間、一度も後退しなかった。まるで無敗の格闘家のような会社です。
ところが、この記録、2024年3月期にストップしました。なぜ、36年も勝ち続けた巨人が、急に止まったのか。
勝因① 中抜きゼロの製造物流網
ニトリの強さの正体は、「製造物流IT小売業」という自社モデルです。
商品の企画、デザイン、製造、物流、販売。そのすべてを、外注せず自社で行っています。
実は、扱う商品の約9割が自社企画のオリジナル商品です。インドネシアとベトナムには自社工場まで持っています。
勝因② 配送網カバー率99%という地味な強さ
配送も、グループの物流会社が一手に引き受けています。全国の人口の99%をカバーする配送網を、自前で作り上げました。
つまり、間に立つ業者を限界まで減らした。中間マージンが消えれば、コストはそのまま下がります。
しかし、安さだけを追ったわけではありません。「意地悪テスト」と呼ばれる、通常では起きないレベルの負荷をかける品質検査を、すべての商品に課しています。
外注を減らすほど、現場は強くなる
病院も同じです。検査も、移動も、記録も、いちいち他部署に頼ると、そのたびに連携ミスや時間のロスが生まれます。
逆に、一つの病棟でできることを増やすほど、対応は速く、事故は減ります。
ニトリの強さは、「自分たちで完結させる」という、医療現場にも通じる地味な努力の積み重ねでした。
しかし、勝者にも”穴”があった
ニトリの商品の9割は海外で作られています。これは裏を返せば、為替に弱いということです。
実は、1円の円安で、約20億円の為替差損が出る計算でした。2021年に1ドル115円だった相場は、2024年には155円まで進みました。
その結果、2024年3月期、売上も営業利益もそろって後退。36年間崩れなかった記録が、ついに止まりました。
客足が遠のいた、本当の理由
そして2025年3月期は、売上は戻ったのに、利益はさらに沈みました。「増収減益」という、ニトリらしからぬ決算が続いたのです。
株式市場の評価も、これに反応しました。かつての成長期待が剥がれ、株価はピーク時の半分近くまで落ち込みました。
実は、もう一つの弱点もありました。国内の既存店の客数が、前期比でおよそ7%減っていたのです。単価は上がっているのに、客数が減る。
負けてから、ニトリは何をしたか
しかし、ここからの巻き返しが、ニトリらしいところでした。
直近の決算では、売上はわずかに減ったものの、純利益は8.1%増の892億円まで回復しています。
物流コストの削減。不振だった島忠事業の収益改善。そして、プライベートブランド比率を上げて利益率そのものを引き上げる。
派手な一発逆転ではなく、地味な微調整の積み重ねで利益を取り戻したのです。
次の一手は止まらない
自社の物流拠点では、荷下ろしを自動化するロボットが本格稼働を始めています。ベトナムや台湾には、新しい旗艦店もオープンしました。
アメリカの関税政策さえ、「調達のチャンス」と捉える姿勢を見せています。
実は、ニトリには「2032年までに3,000店舗、売上3兆円」という30年計画があります。2002年に掲げたこの目標は、まだ生きています。
記録が切れた後にしか、見えないものがある
患者さんの回復も、まっすぐな一本道ではありません。順調だった経過が、ある日突然止まることがあります。
そこで焦って無理をすると、回復はさらに遅れます。むしろ、止まった原因を一つずつ丁寧に見直した人の方が、結果的に長く健康を保てます。
私には「ピークは遅い方がいい。」という持論があります。早く絶頂を迎えた人より、ゆっくり積み上げた人の方が、転んだ後の立ち直りが速い。
36年無敗だったニトリが本当に強いのは、勝ち続けた36年間ではなく、負けた後にもう一度、原点に戻れる体力を持っていたことだと思います。











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