「もう無理、今日こそ辞める」
そう思いながら働く日って、たぶん誰にでもあると思います。 私もそのひとりです。
今回読んだのは、早見和真さんの『店長がバカすぎて』。 タイトルだけ見ると軽そうなのに、読み終わる頃には、笑いと一緒に”しんどさ”がちゃんと残る。不思議な一冊でした。
あらすじ|笑いの奥にある、現場のリアル
主人公の谷原京子は、吉祥寺の書店で働く28歳の契約社員。 忙しさと薄給、終わらないクレーム対応。そして、決定的に厄介なのが店長の存在です。
現場を理解していないのに指示だけは出す。責任は取らない。
「なんでこの人が上にいるのか」
そんな違和感を抱えながらも、京子は働き続けます。 本が好きだから。書店という場所が好きだから。
軽やかな連作短編の形を取りながら、描かれているのはかなり生々しい現場の話です。
理不尽なクレームは、どこにでもある
この本が刺さったのは、ここでした。
「これ、自分の職場と同じだ」
対応したくても、人が足りない。補充もない。余裕もない。
いい人は待ってくれる。でも、その優しさに甘えてしまう自分がいる。
その裏で、何度も鳴るコール。優先度の高い人を対応しているうちに、後回しになる誰かがいる。
「申し訳ない」という気持ちだけが積み重なっていく。
ちゃんと働いているはずなのに、どこかで誰かを取りこぼしている感覚。 そのズレを抱えたまま仕事を続ける感じ。
この”どうにもならなさ”が、驚くほどリアルでした。
それでも、この本は笑わせてくる
不思議なのは、ここまでリアルなのに、ちゃんと笑えることです。
店長はたしかにひどい。でも、ただの悪人じゃない。 どこかにいそうで、でもちょっとだけ誇張されている。 だから読者は「あるある」と思いながらも、少しだけ距離を保てる。
その距離があるから、笑える。 そして、笑ったあとに「しんどかったよな」と自分に戻ってくる。
この往復が、この作品のいちばんすごいところだと思いました。
書店に帰りたくなる理由
読み終わったあと、自然とこう思いました。
「書店に行きたい」
紙の匂い。整然と並んだ本。静かで、少しだけやさしい空気。
あの場所は、ただ本を買う場所じゃなかった。 ちょっと疲れた自分を置いていける場所だったのかもしれません。
電子書籍では埋まらない距離感。人と本のあいだにある、あの絶妙な余白。 この本は、それを思い出させてくれました。
この本をおすすめしたい人
- 理不尽な仕事に少し疲れている人
- 「辞めたい」と思いながらも働いている人
- 人と関わる仕事をしている人
- 最近、ちゃんと笑えていない人
- 書店が好きな人・しばらく書店から離れている人
どちらにも届く一冊です。
笑い飛ばせる日があってもいい
理不尽に削られた日。うまくいかなかった日。 というより、そういう日が続いてしまう時期。
この本は、そんな毎日の中にすっと入り込んできます。
何かを解決してくれるわけじゃない。状況が劇的に変わるわけでもない。 でも、「まあいいか」と思える瞬間をつくってくれる。
頑張れとは言わない。逃げろとも言わない。 ただ、少し笑わせてくれる。その距離感が、ちょうどよかったです。
「取りこぼし」という感覚について
看護師として働いていると、この感覚はよく分かります。 完璧に動いているつもりでも、どこかで誰かの何かを取りこぼしている。
それが積み重なって、ある日ふとした瞬間に「向いていないのかも」と思う。 でも不思議なことに、翌朝にはまた病棟に向かっている。
京子が書店を辞めなかった理由と、きっと同じところにあると思います。 好きな場所には、理不尽ごと愛せてしまう力がある。 それが、仕事を続けさせてくれる原動力なのかもしれません。
しんどさを知っていて、でも笑いに変えてくれる物語
『店長がバカすぎて』は、働く人のしんどさをちゃんと知っていて、 でもそれを笑いに変えてくれる物語でした。
久しぶりに、ちゃんと笑えた一冊です。
もし今、少しだけ疲れているなら。
この本を読んでみてください。
そしてできれば、そのまま書店へ。
たぶん、ほんの少しだけ、気持ちが戻ってきます。











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